HEAT20シンポジウム/「夏期・中間期」の性能が重要に

「住宅性能」のこと
隊長IKEDA隊長

皆さん、こんにちは!IKEDA隊長です。

建築技術の先を見据えた取り組み団体でもあるHEAT20。先日、そのHEAT20のシンポジウムにパネラーとして登壇させていただきました。テーマは、これからの住宅における「夏期・中間期」の性能について。実は、このテーマは私自身にとっても大きな学びの機会となりました。

なぜ今、夏の性能が重要なのか

少し専門的な内容にはなりますが、近年、住宅の高断熱化が急速に進んでいます。HEAT20のG2(断熱等級6)やG3(断熱等級7)といった高い断熱性能を持つ住宅が増え、冬の暖房エネルギーは大幅に削減されるようになりました。これ自体は素晴らしいことです。しかし、ここに一つの落とし穴があります。

高断熱化を進めれば進めるほど、実は夏の暑さ対策をきちんと設計しないと、逆に冷房負荷が増えてしまう可能性があるのです。気候変動により、高温多湿な時期が長期化している昨今、「冬の性能」だけでなく「夏の性能」をしっかり設計することが、これからの住宅づくりには欠かせません。

シンポジウムで学んだこと

今回のシンポジウムでは、HEAT20から新たに「夏期・中間期の外皮性能水準」が提案されました。これまでのG1、G2、G3は冬期の断熱性能を示す基準でしたが、今回新たに提案されたのが、夏期・中間期の性能基準である「G-A」と「G-B」です。

新しい性能水準「G-A」と「G-B」とは?

●G-A水準は、平成28年省エネ基準の住宅と比べて、冷房の顕熱負荷を30%削減する性能水準です。

●G-B水準は、同じく40%削減する、より高い性能水準となります。

この水準のポイントは、単に「冷房エネルギーを減らす」だけではありません。特に重要なのが、中間期(外気温が27℃未満の春や秋)に発生する冷房負荷を増大させないことです。つまり、高断熱化によって冬は暖かくなったけれど、春や秋に室内がオーバーヒートして冷房が必要になる、という本末転倒な状況を防ぐためのあり方なんです。これは、単に断熱性能を示すUA値だけでは不十分で、日射遮蔽や通風設計など、総合的な「建築力」が必要だという提案でもあるんですね。

パネルディスカッションでの気づき

パネルディスカッションでは、国の省エネテキスト作成で10年あまりご一緒した鈴木先生、講演で度々ご一緒しているファシリテーターの南さん、同じくテキスト作成でご一緒したYKK APの児島さんという、名だたる方々と議論させていただきました。正直、とても緊張しましたが、その分、多くの学びを得ることができました。*今回は、ファシリテーターの南さんからの熱いオファーにより、この重たい登壇に・・・笑

特に印象に残ったのは、「鉛直面照度」や「外気冷房」といった設計手法です。これらは、窓からの日射をどう管理するか、外気の涼しさをどう取り入れるかという、住宅設計の基本でありながら、高性能住宅になるほど重要性を増す技術です。こちらは、すでに弊社では「窓は大きい方が良い!」など独自の考え方をもっていましたので、新たな技術要素ではなく、蓄積してきた技術で対応していきますが、一つの指標ができたことで、照らし合わせはしていきたいと考えています。

高断熱住宅の新しい課題

高断熱住宅は、外の暑さを室内に伝えにくい一方で、一度室内に入った熱は逃げにくいという特性があります。

夏場、窓から入る日射熱や、家電製品、調理、人体から発生する熱が室内にこもりやすくなります。特に中間期(春や秋)は、外気温は27℃以下で涼しいのに、室内は日射の影響でオーバーヒートしてしまうという現象が起きやすいのです。

このような問題を防ぐには、以下のような対策が必要です。

  • 日射遮蔽対策:庇や軒の出、外付けブラインドなどで、夏の強い日射を遮る
  • 通風設計:涼しい外気を効果的に取り入れる窓の配置と開閉計画
  • 窓の設計:方位や用途に応じた適切なガラス性能の選択

単に「UA値が良い」だけでは、1年を通して快適で省エネな住宅にはならない。これが、今回のシンポジウムで改めて確認できたことでした。弊社でも実践していることではありますが、都市部的難しさや要素他、地域の特性を鑑みてより今回のデーター等をもとに今後の技術向上に活かしていきたいと思います。

冬と夏、両方の性能表現「G2-B」「G3-A」

今回の提案で興味深いのは、冬期の性能(G1~G3)と夏期・中間期の性能(G-A、G-B)を組み合わせて表現する点です。

例えば「G2-B」や「G3-A」といった表記になります。これにより、通年に渡る住宅性能、居住環境性能のバランスがとれた「建築力」を持つ住宅であることを示すことができます。高性能住宅は、冬だけ、あるいは夏だけ快適であれば良いわけではありません。1年を通して、少ないエネルギーで快適に暮らせることが重要です。

*この表現方法はこの団体HEAT20での呼び方なので法律ではないことに注意してください

これから家を建てる皆さまへ

住宅の性能を考えるとき、「断熱性能の数値」だけに注目しがちです。もちろん、高い断熱性能は重要です。しかし、それと同時に、窓の配置、庇の設計、風の通り道といった「建築的な工夫」がなければ、本当に快適で省エネな住まいにはなりませんし、建築費との兼ね合いも大切です。

「性能の数値」と「建築の工夫」、この両方がバランスよく備わった住宅こそが、1年を通して快適に、そして長く愛される住まいになると、隊長は考えています。今回のシンポジウムを通じて、改めて「建築力」の重要性を再認識しました。2026年3月には、HEAT20から『窓から考える ?』?的な書籍も出版される予定で、窓のあり方が住宅建築の肝と考えている弊社ではとても楽しみな書籍です。こうした最新の知見を学び続ける工務店として、引き続きお客様へより良い住まいを提供していく技術を高めていきたいと思います。

隊長

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